コラム
column
2024-11-13
オーストリア出張(神棒 2024年10月)
久しぶりの投稿になります。2020年にパンデミックが発生して、海外渡航が困難になり、出張後の投稿を行うことができない時期が3年ほど続きました。2023年3月頃からから海外出張を再開、数えてみると2024年11月までにパリに5回、ロンドン1回、イタリア3回、米国3回など結構な回数で渡航しており、その他新たにモロッコ、チュニジア、ポーランド、スロベニア、アイスランドなど訪問し、ほぼパンデミック前に戻ったと感じています。
パンデミック前は出張から帰国すると、かなり頻繁に投稿していましたが、3年間渡航がなく、一旦習慣を失うと、イナーシャ(精神的な惰性)が働き、再開するのが難しくなります。今回の投稿でイナーシャをうち破り、元の習慣に戻していきたいと考えています。
今回は、2024年10月にオーストリアに訪問した時のことを投稿します。ウイーンには何度か行ったことがあるため、今回はザルツブルグに滞在しました。
オーストリアの人口はおよそ900万人。一人当たり名目GDPはUSD53,000。日本がUSD33,000ですから1.6倍の水準になっています。(データはいずれもIMF、2023年)。英仏独の一人当たりGDPはおおむねUSD50,000~55,000ですので、ヨーロッパの中規模国ながら3大国をやや上回るか、同水準の高い生活水準を達成しています。
今回訪問したザルツブルグは、オーストリアの3大都市のひとつで州全体の人口は56万人。一人当たりGDPもオーストリア平均とほぼ同水準になっています(出所:Salzburg州HPより)
首都ウイーンは地理上東にあり、歴史的な経緯として中欧(ハンガリー、チェコ、スロバキア等)の入り口として機能しており、通商・貿易のメリットを享受してきましたが、西にありドイツ国境近くに位置するザルツブルグはその機能はないと考えられます。
〈ザルツブルグ近辺 自然が保護されている〉

ロンドン、パリ、ロサンゼルスに行ったときには投資ファンドや、Fintech、ITといったハイテク、経営や法務などの専門家など活動が活発で、日本との格差を感じましたが、ザルツブルグ市街など回っても、オフィスビルなどはあまり見られません。日本の地方都市と差はないように感じました。日本企業も拠点を置いているところは少ないようで、ソニーのディスク製造拠点や炭酸カルシウム製造企業などがみられます。但し、現地の方から聞いて驚いたのは、エナジードリンクのRed Bullを製造販売する企業(Red Bull GmbH社)の本社がザルツブルグにあり、今回案内いただきました。Red Bullと言えば牛のイメージから闘牛と結びついてスペインの会社と思い込んでいました。
〈ミラベル宮殿でのコンサート〉


ザルツブルグはドイツ語での名前「塩の城」が示す通り、もともと塩の鉱山があり、採掘して、川を通じて運搬することで栄えたようですが、今はすたれたようであり、その他製造業などの活動も活発と感じられませんでした。
一方、文化的なブランドは大きなものがあります。モーツワルトの生誕地であり、名作映画「サウンドオブミュージック」の舞台として知られています。このため、サウンドオブミュージックゆかりの場所を回るバスツアーや、ミラベル宮殿なども一般公開され、コンサートにも参加できるため世界中から観光客が集まっています。
ミラベル宮殿でのモーツワルトの楽曲のコンサートは、私も参加しました。6名の方が2時間程度で楽曲を奏でます。これでUSD50ドル(約7,500円)でした。観客は100名程度で、混雑などのストレスを感じることなく楽しめ、美しく歴史のある宮殿でこの価格、品質のバランスはロンドン、パリでは得にくいものと感じられました。
ザルツブルグは先端のハイテク産業などあまり見られなくとも、音楽というコンテンツを使って、繫栄を享受しているようです。多くの都市では、大勢の観光客が押し寄せ、混雑し、騒音、ごみ、落書き等の問題が生じ、観光客自身も効用がさがるいわゆる「オーバーツーリズム」の問題がいわれますが、ザルツブルグではバス、宮殿なども適度の込み具合で、市内、周辺地域も景観よく、美しい自然を保護していました。
人材についても、コンサート運営などを通じて音楽家の生活を安定化させ、人的資源を蓄積し未来につなげているように感じました。海外からの人材も引き付けており、現地で案内してくださった方はオーストラリア人で、ザルツブルグに魅せられて移住してきたと言のことでした。投資を引き付ける力も堅調で、不動産賃貸物件なども観光客向け宿泊施設などへの投資が活発と説明を受けました。
ハイテクや高度知識集約型産業の集積が限定的な小さな都市でも、欧州大国を上回る生活水準を実現できる事例と考えます。現在の日本において、ハイテク産業が国際競争から脱落してしまい、内需も増えないため、インバウンド旅行需要などを取り込もうとする動きが活発ですがザルツブルグも参考になるものと考えます。