コラム
column
2025-06-02
バークシャーハサウェイ株主総会出席 Part3(神棒 2025年5月)
パート3では、Q&Aセッションでバフェット氏がどんなことを語ったかについて述べます。
出席にあたって私の問題意識に基づき2つ質問を用意していきました。2万人超が参加し、株主は順番にゾーン分けされた場所に着席し、各ゾーンから1名のみ、全体で数十名しか質問できないので、私が質問できる確率は1%をはるかに下回るものでしかありません。実際、直接質問することはできませんでしたが、他の株主が似た内容や関連する質問をしていましたのでバフェット氏らの応答を踏まえ、私のとらえ方を示したいと思います。
質問の1点目は下記の通りです。英語版を示し、その後に日本語が続きます。
Question 1
(英語版)
You’ve long said that for most people, the best investment is a low-cost S&P 500 index fund—rather than picking individual companies, one should invest in the entirety of great American businesses.
However, I believe American business is now undergoing a significant structural transformation. Historically, the U.S. economy thrived through cooperation with the international community via frameworks like the WTO, sourcing inexpensive goods from abroad while providing high-value-added products and services domestically and exporting them globally. Exceptional managers competed in a free and efficient market. Immigrants pursued the American dream, supplying labor and building global enterprises across generations. American business embraced diverse values, maintained a strong meritocracy regardless of race, background, or religion, and benefited from world-class universities that led in R&D and generated countless innovations.
But today, unpredictable tariff policies are driving inflation and altering cost structures. Labor shortages and rising wages are straining businesses. At the same time, opposition to DEI initiatives, political interference in higher education, and increasing favoritism threaten to erode the very systems that once enabled high efficiency, high profitability, and high growth.
Here’s my question: Given these changes, and looking ahead over the coming decades, do you still believe American business will maintain its superiority—and that investing in the S&P 500 remains the best strategy, compared to alternatives like the STOXX 600 or the Shanghai Composite?
(日本語版)
あなたは常に、多くの人にとって低コストのS&P500インデックスファンドへの投資がベストと言ってこられました。個別企業を選択するのでなく、優れたアメリカのビジネスへ丸ごと投資すべきであると。
ところが、現在、アメリカビジネスは大きな構造変化にあると思います。従来は、WTOなどで国際社会と協調し、自由な国際貿易を通じて、安く海外からものを調達し、一方で高付加価値のモノやサービスをアメリカ内に供給、そして世界中に輸出し成長して来ました。自由で効率的な市場で優れた経営者が競争し切磋琢磨してきました。多くの移民がアメリカを目指し、アメリカンドリームを実現すべく懸命に努力してきました。移民は大きな労働供給となり、2世、3世が起業家として世界的な企業を育ててきました。また、アメリカのビジネスは多様な価値観を許容し、人種、出自、宗教などに関係なく能力主義が徹底されてきました。優れた大学がたくさんあり、研究開発で世界をリードし、数えきれないイノベーションを生み出してきました。
朝礼暮改の関税政策はアメリカのインフレを高め、コスト構造を変えます。労働力も不足し、人件費が高くなります。その他、反DEI、大学への介入、縁故主義などで高効率、高収益、高成長をもたらすアメリカの優れた仕組みが壊れようとしています。
私の質問です。このような状況、今後数十年を見通した場合、アメリカビジネスは優位で、STOXX600やShanghai CompositeでなくS&P500への投資が最強であるとの信念は変わりませんか?(質問終わり)
私の問題意識は、アメリカビジネスが構造的に弱体化しうる変化です。直近では株価の下落や債券市場の変調をもって景気後退が予想されるようになってきましたが、景気という循環、つまり、しばらくしたら回復するという問題でなく、構造的な問題ではないかと思います。すなわち長期的に、ビジネスがやりにくく、アメリカの生産性、収益性が低下し、優れたエンタメに溢れたワクワクするような社会でなくなるのではないかと感じます。
これに関連する株主からの質問はいろいろ出ていました。
現在の関税の情勢についてどう思うか聞かれて、バフェット氏は「貿易を武器とすべきでない。3億人のアメリカ人は良くても75億人はアメリカを嫌う。こういう状態を正しいと思わないし、賢いと思わない」、「他の世界の人が繁栄するのは、我々アメリカ人の負担ではないし、我々アメリカがより繁栄することとなるし、より安全と感じるだろうし、子供たちもそう感じるだろう」と回答しました(一部意訳)。また”We should do what we do best, and they should do what they do best”(我々は一番秀でたことをすべき。そして彼らは一番秀でたことをすべき)と経済学の貿易比較優位の理論や今の関税交渉が世界から尊大(Arrogant)と冷ややかに見られていることを深く理解していると思い、さすがオマハの賢人(Oracle of Omaha)と思い、感動すら感じました。特にアメリカだけが繁栄しても、他国の妬みを生み、テロなどの標的になりやすく、決して幸せになれないと考えており、アメリカの良心だなとも思います。
Exceptionalism(アメリカの例外主義、つまりアメリカビジネスが平均回帰することなく、世界の中で特別に成長性、収益性の高く、優位にある)が構造的に揺らぐのではないかという質問も出ていました。
それに対するバフェット氏の回答は、「我々は常に変化の中にいる。常にあらゆる批判がある。でもアメリカに生まれてラッキーだった。私が生まれたときは世界の3%の出生がアメリカで起こっていた。」、「私が生まれた1930年以降、大不況、世界大戦、核兵器の開発など夢にも思わなかったことが起こった。発生したすべての問題を解決できていないという事実についてもがっかりしない」と述べた上で、「今日、私が生まれるとしても子宮の中で、アメリカで生まれたいと交渉し続けるだろう」と述べています。
これを聞くと、歴史的にはアメリカは様々な大きな問題を抱え、すべてを解決できたわけではないが、アメリカの強さは揺るがないという見方をしていることがわかります。現在の関税などの経済政策は間違っているが、歴史の中ではこのような問題は決して大きな問題ではなく、すべてとは言わないまでも解決されてアメリカビジネスは発展していくという楽観的な見通しを持っていると感じました。
他にドルの下落についての質問も出ています。「2025年に入りドルが急速に価値を失っている。価値下落の部分が会計上の費用となるので発生しないよう対策をするのか?」、日本の5大商社への投資も踏まえつつ「将来的に外貨建て(ドル以外)の資産を為替ヘッジなしで保有する可能性があるか?」との質問もありました。
バフェット氏は「今までも外貨建ての資産を保有してきた」、「四半期や今年の年次業績の数字のために為替ヘッジを行うことはない。大事なのは5年後、10年後、20年後にどうなるかだ」と述べています。
そして、 「明らかに、本当に地獄に行くような通貨建てのいかなる資産も持ちたくない」(”Obviously, we wouldn’t want to own anything in a currency that we thought was really going to hell.”)と述べた上で、米ドルへの警告を発しています。
「米ドルについて大いに心配している。政府は自身の通貨の価値を低下させる傾向がある。どの仕組みもそれを防げない。あなたは政府に独裁者を選ぶことができ、代表を選ぶことができ、なんでもできる。でも通貨価値下落に向かってしまう。」(That’s the big thing we worry about with the United States currency. The tendency of a government to want to debase its currency over time – there’s no system that beats that. You can pick dictators, you can pick representatives, you can do anything, but there will be a push toward weaker currencies.)と述べています。
2025年初来、ドルは下落しています。これは米国から資金が逃げ出していることを示します。バフェット氏もアメリカ経済の成長率、収益性の高さについて楽観的ですが、ドルについては心配しているようです。アメリカの収益性の高さに注目して海外から資金が流入し、その結果通貨が強かったのが過去でした。一方、為替が下落することはアメリカ外への資金の振り分けであり、アメリカビジネスの相対的な収益性が落ちることやリスクを懸念していることになりますので、アメリカ経済への楽観とドルへの懸念は矛盾しているように感じます。株主総会での質問と回答のみでは両者のつながりはわかりませんが、バフェット氏もアメリカの今後についてバラ色で一点の曇りもないわけではないことがわかり、私も今後を考える上で参考になりました。
次に2番目の質問です。バークシャーによる日本の5大総合商社への投資増額についても質問を準備して行きました。英語、日本語の順に示します。
Question 2
(英語版)
I’d like to ask about the increased investment in Japan’s five major trading houses.
I believe the reasons for the increase include their diversified business model—investing across a wide range of industries such as oil, minerals, energy, food, machinery, and chemicals, and being involved in management—which is similar to Berkshire Hathaway’s approach. Additionally, their stock prices are still considered undervalued.
From my perspective, however, it seems that many of the companies in which the general trading houses invest do not hold strong positions in their respective markets.
For example, in the Mount Newman iron ore project in Australia, Mitsui & Co. and Itochu Corporation each hold only a 7% and 8% stake, respectively, while their joint venture partner BHP holds the dominant 85%. Similarly, in the Robe River JV project, Mitsui holds only 33%, whereas Rio Tinto owns a majority 53%. Generally, in oil and mineral resource development projects, Japanese trading houses have relatively small equity stakes, limiting their influence over the projects, with much of the profit going to Western majors.
In another example, Mitsubishi Corporation has invested in a salmon farming business. The global leader is Mowi, while Mitsubishi’s investee, Cermaq, is only the 4th or 5th largest in the world, and doesn’t seem to hold a strong market position. While this isn’t the case across the board, many investments made by general trading companies are in firms that do not necessarily have a large market share.
Berkshire Hathaway has achieved great success by identifying undervalued, promising industries or companies and investing in them at the right time. Rather than investing in a collection of mid-sized companies with minor equity stakes or being the fifth-largest player in various industries—as is often the case with Japanese general trading houses—wouldn’t performance be better if Berkshire focused on finding overlooked, undervalued individual sectors or companies and building a diversified portfolio through well-timed investments? What are your thoughts on this?
(日本語版)
日本の5大総合商社への投資増額について伺います。
増額した理由として、石油、鉱物、エネルギー、食糧、機械、化学など非常に広い業種に出資し、経営にも関与するビジネスモデルでバークシャーと似ていること、株価がまだ割安であることなどがあると思います。
私の見方では、日本の総合商社のビジネスを見るに多くの投資先がその市場で強いポジションにいないように思いました。
例えば、三井物産と伊藤忠はオーストラリアのマウント・ニューマンの鉄鉱石事業のプロジェクトではそれぞれ7%、8%しか権益を持っていません。JV相手方のBHPが85%ほとんどを保有しています。またローブ・リバーのJVプロジェクトでは、三井物産は33%を保有のみで、Rio Tintoが53%と過半を保有しています。一般に石油、鉱山の資源開発では、日本の商社の権益は小さく、プロジェクトへの影響力は限定的で利益の多くは欧米のメジャーが得るものと考えます。
他に、例えば、三菱商事は、サーモン養殖事業への出資を行なっています。最大手はMowiですが、三菱商事出資先のCermaq社は世界で4、5番手にすぎず、市場で強いポジションにいると思えません。この事例のように全てとはいいませんが、総合商社は、多くは必ずしもシェアが高くない会社に投資しています。
バークシャーは、個別に割安な有望産業や割安な有望投資先を見つけて適切なタイミングで投資を行うスタイルで大きな成功をおさめてきました。多岐にわたる産業において、マイナーな権益保有や市場の5番手などの中堅企業への出資の集合体である日本の総合商社でなく、自ら見逃されている個別産業を見つけ、割安とされる個別企業を見つけてきてタイミング良く投資し、分散ポートフォリオを作った方がパフォーマンスが上がるのではないかと思いますがいかがでしょうか。
日本の総合商社への投資増額については他の株主から質問があり、関心が高かったように思います。私は、商社の資産内容に関して興味があったのですが、他の方の質問は為替(バークシャーにとっては米ドル外の外貨資産になります)と絡めた質問でした。
バフェット氏は、「為替は怖いが、総合商社株は50年、100年あるいはそれ以上保有するつもり。円建て負債を発行する。ただ負債発行は四半期や年次利益対策ではない。」(“So currency value is a scary thing, and we don’t have any great system for beating that. We do in this particular Japanese position because we expect to hold it for 50 or 100 years or more…… . As long as the carry on it is right, we’ll attempt to issue Japanese-denominated liabilities, but that’s not because of anything we care about in terms of quarterly or annual earnings.”)
来年よりバークシャーのCEO職をバフェット氏から引き継ぐことになったアベル氏も総合商社への投資に満足し、長期保有目的であること、そして、円建て負債を実施し、その円資金を活用した良い追加投資機会もあることを示唆しています。(”Relative to the question, there’s no question we were fundamentally very comfortable with investing in the five Japanese companies and recognizing we’re investing in yen. The fact we could then borrow in yen was almost just a nice incremental opportunity. But we were very comfortable both with the Japanese companies and with the currency we would ultimately realize in yen.”)
バフェット氏はヨーロッパへの投資を挙げて、大きなドル外の外貨投資は行う可能性はあるが、大きなユーロでの借り入れを行うことは、「通常の投資活動ではない」(”But it’s not a regular activity.”)と述べています。
私の質問は日本の総合商社の資産(投資先)は必ずしも強くないため、バークシャーが個別の業種で個別の企業で割安な先を見つけ、投資した方がパフォーマンスもあがるのではないかという点を聞きたかったです。関連質問を見る限り、私の印象は、5大商社に丸ごと投資することで、世界に幅広く、多くの産業に投資した分散ポートフォリオを得ることができる、つまりベース(基本)の資産として考えているのではないかというものです。円建ての負債を行うことで為替リスクを小さくする一方、総合商社の配当利回りは4%を超えているので、負債の金利が1~2%であっても鞘が抜ける状況です。現時点でもし各総合商社株の10%を保有した場合、時価総額は280億ドル(約4.2兆円、JPY/USD=150為替レート以下同じ)となりバークシャーの投資金額の総額(現金などを含む)は5860億ドル(約89兆円)ですので、5%程度になります。総合商社は成長性や値上がりはそれほど期待できないが、バークシャーのポートフォリオのベースと位置づけているのではないかと考えています。
以上が、株主総会の内容の紹介となりますが、結果を踏まえ、現時点では以下のように考えています。
私自身はこの15年ほど、ビジネス、投資、余暇など自分の活動、時間についてグローバル分散し、1/3をアメリカに、1/3をヨーロッパに、日本や中国、東南アジアなどアジアを1/3のウエートを目安にすべく行動してきた。年によって大きく変動しますが、長期的にならすとこれらのウエートに収斂できているのではないかと思っています。
今、起こっていることは関税政策などアメリカの強みを壊す構造的な変化であり、アメリカ一極集中の崩壊であり、成長力の低下などを懸念しています。バークシャー株主総会でバフェット氏のアメリカビジネスへの信頼、楽観は崩れておらず、安心した面はあるが、彼自身もドル価値の下落懸念をもっており、私自身もアメリカの長期的な優位性継続に関して完全に納得したわけではないです。よって、当面はアメリカへのウエートを下げ、様子を見る形で臨みたいと考えています。