コラム
column
2025-10-09
ハワイ渡航(神棒 2025年9月)
9月にハワイに行ってきました。通算8回目の訪問となりました。このHPを再度見てみると2017年9月に訪問時にもコラム(Bon Voyage)を記載しています。コロナ禍もはさんで、8年が経過しており、時間の流れの速さに驚いています。
今回の渡航で気になっていることは、トランプ経済政策の中核をなす関税引上げなどで物価がどう動いているか、アメリカが急速に独裁化、権威主義化し、国際的に孤立する中でハワイが依存するツーリズムがどう変化しているかといった点です。
近年、訪問するごとに感じるのは、日本人渡航者が少なくなったということです。ハワイ州Department of Business, Economic Development & Tourismによると、2024年にハワイ全体で延べ970万人が訪れ、うち日本人が71万人となっています。2025年は7月まで統計が発表されていますが、ほぼ前年と同じ水準です。前回コラムを書いた2017年は日本人渡航者数が年間159万人、コロナ禍直前の2019年は158万人となっています。現在は半分以下となり8年で劇的に減少したと感じます。
ハワイへの渡航者の3/4、730万人を占め、圧倒的なのはアメリカ本土からです。アメリカ人にとっての観光地の一つということなのだろうと思います。アメリカ以外の渡航者で最大なのが減少したとは言え日本ですが、続いてカナダ45万人、オーストラリア17万人、韓国15万人となっています。(2024年数値)。
日本は、為替レートの下落など構造的な停滞要因で増える可能性はないと思います。カナダ人は、現在トランプ政権下、関税問題などで感情的に敵対しており、アメリカへの旅行を敬遠しているとメディアでも伝えられています。ハワイへの渡航も例外ではありません。2025年に入り7月までの累計でカナダ人の渡航は24万人と前年同期比で9.4%減少しています。現状の政策などが継続する限り、益々、アメリカ人向けの国内観光地としての色彩を強めると想定されます。
ハワイの魅力は、海、山の大自然、一年中温暖な気候など大きいですが、ショッピングも一つの要素でしょう。ホノルルなどでは、日用品、チョコレートなどの他、化粧品、バッグ、時計など多くのブランド店が並んでいます。多くの物品は、ハワイで生産されておらず、海外から輸入されています。ブランド品などは欧州から、日用品は新興国から輸入されていることになります。トランプ関税ではこれら輸入品には追加関税が課されることになっています。
例えばスイス製の時計を考えてみます。(私は、ハワイでスイス製の時計を購入したことがあり、毎回価格をチェックしています。)スイスからの輸入品には、2025年8月より39%の関税が課されています。今回渡航で昨年同様販売店に訪問しましたが、値段は上がっていませんでした。同じ商品の日本での販売価格(日本とスイスの関税は従来通り)とほぼ同じでした。おそらく、まだ関税が引き上げられる前に輸入した在庫を販売しているものと思われます。販売員に確認したところ、「我々は仕入れ交渉を行うことで現状、価格を抑えている。しかし、10月1日から価格を引き上げます。今買った方がお得です。例年は年2回、価格改定が行いますが、今年は3回になりそうです。」との説明を受けました。また別の欧州系のバッグなどで有名なブランド販売店でも現状価格の上昇は見られませんでしたが、販売員は価格の上昇を予想していました。
U.S. Bureau of Labor Statisticsの物価統計を確認すると、ハワイの都市部の物価が継続的に公表されています。現状、2025年7月までしか確認できませんが、7月のApparels(衣服、時計などの物価水準)は123.55と前月130.233から、前年同月130.27から下落しています。現在の統計は、関税発効前で仕入れ交渉などで価格上昇を抑えている状況なのでしょうか。販売店は、長期的には関税費用を価格転嫁するはずですので、今後、どう推移するか見ものです。半分を販売価格に転嫁し、半分を自社で負担するのか、全額価格転嫁されるのか、商品の価格弾力性、仕入交渉力、マーケティング方針などにより業界、個別店の対応は分かれるでしょう。程度の差はあるにせよ関税による価格上昇はハワイのショッピング先としての魅力を低下させるものと考えられます。渡航者がアメリカ人であろうと、日本人、カナダ人であろうとスイス製の時計は追加関税のかからない米国外で購入するのが有利になるからです。実際に、米国でスイス製時計を購入するのにヨーロッパに行く動きが顕在化しています。(例えばCNBCの記事 https://www.cnbc.com/2025/08/27/wealthy-travel-to-europe-to-dodge-tariffs-on-luxury-goods.html)。高額なスイス時計を購入するなら、関税が転嫁された価格で購入するより、スイスに渡航し、直接購入することで大きなメリットがあり、航空機運賃くらい浮く可能性があります。
ハワイではレストランでの外食も大きな魅力の一つでしょう。これも同様にU.S. Bureau of Labor Statisticsによる物価推移が発表されています。Food away from home(外食)というカテゴリーです。この指数は2025年7月時点で402.001となっています。前年同期比3.39%の上昇で高めではありますが、驚くのは継続的、長期的な上昇です。前回ハワイに関するコラムを書いた2017年と比較してみると、2017年の年間平均指数が273.003ですので、44.8%上昇しています。コロナ禍を含み8年間で40%以上上昇しているわけです。
これらはドル建てでの価格指数ですので、日本人渡航者の視点で為替レートの影響を含めて見てみます。JPY/USDは2017年9月1日時点で112.47円でした。現在このコラム作成時点で148.69円ですので、8年で為替はショッピングのために日本円は32.2%多く必要になった(=円の価値が下落した。円安が進んだ)ということです。結局、ドル建ての外食費用の上昇44.8%と為替レートの変動を掛け合わせると、日本人にとってハワイ外食費用は91.4%上昇したことになります。この8年で外食費用は約2倍になったことになります。
さらにアメリカには広くチップという習慣があります。コロナ禍を経てチップの水準も値上がりしたと感じます。以前、私はアメリカ行っているときはテーブルサービスを行うレストランで5~10%くらいのチップを払っていたように記憶しています。ところが、2020年発生したコロナ禍で、感染のリスクを超えて対面サービスを提供してくれているという観点からRestaurant Serverの方たちに多めのチップを支払うことが責務という考えが広がっていたようです。レストランの価格に20%、30%のチップを払うのは当然という雰囲気でした。コロナ後、この水準が習慣化されるとともに、支払いのデジタル化が進みました。クレジットカードで払うのは従来からありましたが、デジタル支払端末が普及し、支払いの時にチップ支払いのページが提示され拒否しにくい状態です。これらの現象は、Tipflation(チップのインフレ)とよばれます。日本人渡航者の視点で見ると、8年で2倍に上がった外食料金にこのようなチップ率の増加が加わることになります。
今回の私の経験を述べますと、ホテルの部屋で食べようとテイクアウト店を利用しました。テーブルでの飲食でなく、テイクアウト店で対面サービスがない飲食ではありますが、支払時、端末画面でチップは25%、18%、10%から選択となっていました。カスタムで金額を指定することができますが、別のページに推移させなければならず、従業員の方が見ている、次の人が並んでおり、サービス提供を遅くし迷惑をかけてしまうなどプレッシャーを感じたため、デフォルト率を選択しました。
概して言えば、トランプ通商政策は、価格上昇を通じて、ショッピング先やサービス消費先としてのハワイの魅力を低下させることになります。特に円安が止まらない日本人にとっては大きな価格上昇に感じるでしょう。
価格以外の変化を見てみます。現在、アメリカ全体では、通商交渉において従来からの国際合意を勝手に反故にし、傲慢な態度を示し、国際社会から孤立しそうで残念ではあります。今回の渡航では、ショッピング以外にシュノーケリングツアー、Cirque Du Soleilの観劇、マジックショーなどを経験しましたが、私が受けたサービスは、いやな思いをすることなく、オープン、多様性、おおらかさなどアメリカの優れた点を維持しているように感じました。マジックショーでは、観客は私のグループ以外は全員アメリカ人でしたが、英語での説明に加え、日本語を混ぜて進行され、「日本のことを知りましょう」などの話が出て、相互の尊敬(Mutual Respect)、国外からの渡航者への配慮が維持されていると感じました。レストランなどでも不快な思いをすることはありませんでした。
さらに、雄大なハワイの自然は変わりがありません。星の観察にも出かけましたが、360°見張らせる場所で空を見ると、天の川とともに夏の大三角形とカシオペア座がくっきりと見え、小学校時代に戻ったようで興奮しました。大自然は、人間社会の混乱とは関係なくタイムレスに輝き続けています。
<ハワイでの夏の大三角形、カシオペア座>

やや話が広がりますが、日本でも、近年、排外主義が高まっています。長年、経済成長しておらず、社会には閉塞感が漂います。自分の生活がうまくいかないのは、外国人のせいで、彼ら、彼女らは医療など社会保険にただ乗りしている、犯罪が増えて治安が悪くなった、等。これらの一つ一つにこのコラムでは、データを挙げて反論はしませんが、思い込みが多く、合理的な情報、データにかけ、現実を見ていないと感じます。国を開き、外国人の力も借りなければ、ますます衰退するでしょう。
このような雰囲気で、日本の外に市場を求め、日本の外に出て、新しい商品、サービス、技術を経験し、学び自分のビジネスに生かす動きも減少していくでしょう。2017年のコラムでも書きましたが、ハワイはモノを製造したり、考えたりする場所にはなりにくいですが、アメリカ経済、米国人の消費動向、変化などを見るうえで様々な情報を与えてくれる国際的拠点です。私は、ハワイが排他主義に陥ることなく、開かれた国際拠点として位置し続けることを祈りつつ、日本を拠点としつつ、信念をもって、日本の外に渡航し、ビジネス、投資を通じて世界の成長を取り込みたいと考えています。