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コラム

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2026-01-19

アメリカ ラスベガス訪問(神棒 2025年11月)

11月にアメリカに行ってきました。カリフォルニアで所用を済ませた後、ラスベガスに行き、メキシコ、ベリーズと回りました。

 

前回、4月〜5月に渡航した際は、アメリカが急速に権威主義化、独裁化、縁故主義、排外主義化が進み、どこに行っちゃうのかという恐怖感があった。場合によってはアメリカで活動できない可能性すら意識していました。

 

日本でも報道の通り、2025年11月には、バージニア州知事、ニュージャージ州知事、ニューヨーク市長選挙があり、大きな差をつけて民主党系候補が選ばれた。カリフォルニア州では、テキサス州などのゲリマンダリング(共和党候補が有利になるように区割りを変更すること)に対抗して、民主党候補を有利にする区割りを行うProp50も大差で可決されました。各種世論調査によるトランプ大統領の支持率も過去最低を示しており、潮目が変わったとの期待も感じ訪問しました。

 

今回の渡航で心配だったのは、飛行機が飛ばないことです。イーロン・マスクの政府効率化省による大量解雇と政府閉鎖による無給化で空港の航空管制官が不足しており安全が確保できないとして、減便になっていました。ロサンゼルスの後、ラスベガス、国際線でメキシコのカンクン、その後、ベリーズへ渡航し、米国に戻り、ロサンゼルスから帰国するルートでした。しかし、ロサンゼルス空港をはじめ、全く混乱もなく、フライトはすべて定刻通り、トラブルなしでした。

 

〈ラスベガスの夜景〉

 

今回はラスベガスでの経験を書きたいと思います。ラスベガスと言えば、カジノですが、実際訪問者はカジノばかりをしているわけではなく、各種エンタテイメントを楽しみます。今回、私はまず、シーザスパレスにあるラスベガス最大のビュッフェBacchanal Buffetに行きました。2,300㎡(約700坪)の会場に250種類の食材が並べられ、90分の制限時間です。17時間ほど食事をせずに臨みましたが、実際に食べられたのは30種類くらいでした。今まで世界中のホテルでビュッフェをいただきましたが、スケールの大きさ、種類の多さ、圧倒される食材展示など今までにない経験でした。

 

今回の本題はラスベガスにあるThe Sphereという球状の劇場でオズの魔法使いを見たことです。1939年に制作された古典名作映画「オズの魔法使い」をAIにより画像処理し、解像度を上げ、360°の眺望でThe Sphere内で上映されます。表情も奥行きが感じられる3Dで実在しているように感じました。加えて風、霧、雪などのシーンでは座席が振動し、実際に自分がその場にいるかのようにモノが舞います。これらを含めて4D経験と呼び、マーケティング文句としてはImmersive Experience(没入型体験)と言われます。

 

〈The Sphere 球体の劇場で外壁ディスプレイも自由自在に表示〉

 

 

The Sphereをビジネス面から見てみたいと思います。

 

まず、先端技術における日本の没落を思い知らされました。20年くらい前まで、ソニー、パナソニック、東芝などがテレビ、オーディオ、放送用機器といった分野で長らく世界をリードし、ソフトでもハリウッドを代表する映画スタジオなども所有していました。しかし、中国、韓国メーカーが台頭し、あっという間に競争力を失いました。世界の空港で、日本メーカー製のテレビを見ることはなくなりました。パナソニックはUniversal Studioを2005年に完全売却しています。(ソニーはColumbia Picturesを保有し続けています。)

 

また、オズの魔法使いの放映が終わると、一般の映画館などと同じでクレジットとして提供先の会社名が表示されますが、Google Cloud, Warner Brothersなどに従来からの大手プレーヤーに加え、MAGNOPUS, big skyといった新興の映像技術企業の名前がありました。残念ながら日本企業の関与は全く見えなかったです。

 

The Sphereの建設費は23億ドル(2018年に計画が明らかになり、コロナ禍で建設が進んだようでどの時点で支出されたがわからず適切な為替レートが設定できませんが、JPY/USD=150とすると約3,750億円)で巨額です。現在はAIの実用化、社会実装の初期段階で、今後技術がどう進むかは現時点で読めないため、手堅く、よく考えられたビジネスと思います。私の入場料は124ドル(現時点での為替レートでおよそ19,000円)でした。席により値段は違いますが、2階中央に位置し、平均か、やや高いレンジにあると思います。最低料金は104ドル(約16,000円)と出ていました。日本のコンサートでは人気アーチストの場合では15,000円くらいで日本より高いと一見感じますが、アメリカのサービス一般物価(例えばホテル、レストラン)の高さを考えると、かなり安価に設定してある印象です。座席数は4,500~最大5,000で、一日あたり2~4回上映されます。4,000席、平均単価19,000円で販売したとすると1回で7,600万円、日に2回放映の場合一日で約1億5千万円程度、3回放映で2億3千万円になります。

 

コンテンツは、製作費をかけて新しく一から開発するのでなく、だれもが知っている古典名作をAI加工しています。よってコンテンツを何度も使うことに関しては、電気光熱費(LEDを大量に使っているようです)、会場、警備スタッフ、雪や嵐のシーンで使う紙吹雪などの物品費などで追加コストはそれほど大きくありません。AIの実装初期段階として手堅くビジネスモデルが練られていると感じる点です。

 

同じようなものは日本国内ではないのかと調べたところ、イマーシブ・フォート東京という施設があるようです。私は利用したことはありませんが、Immersive Experience(没入経験)を売りとする点では同じです。(ここからThe Sphereでのオズの魔法使いのビジネスを総称して「Sphere」、イマーシブ・フォート東京を「イマーシブ東京」と省略して記載します)。

 

イマーシブ東京では、東京リベンジャーズなどの人気コンテンツやゲームを使って、観客自身がキャラクターになり、俳優とともにストーリーを作り上げていく経験ができるようです。イマーシブ東京の企画、運営にはマーケティングで高名な企業が関与しており、日本政府がかかわる官民ファンドであるクールジャパン機構が出資しているようです。

 

しかし、イマーシブ東京は2026年2月末をもって事業を終了すると発表しています(出所:https://immersivefort.com/news/grandfinale2026/)。このお知らせを見た瞬間、「またいつもの失敗パターンだ」と思いました。Sphereとのビジネスモデル組成力の違いとかねてより批判の多いクールジャパン機構の関与、つまり政府関与の仕方、税金の使われ方の問題を感じざるをえません。失敗が決定したビジネスを成功しているように見えるビジネスと比較するのは比較的簡単なことで、不快に感じる方もいるかもしれませんが、海外の事例Sphereと比較している事例も少なく、有用であると考え以下記述します。

 

まずイマーシブ東京は、AI時代が到来しているにも関わらず、技術を無視して、デジタルでなく生身の俳優を活用してしまった。このためスケールを増やすことができず、コスト構造上不利になってしまったことです。人間が演じるとなると一日3回、4回と上映することが難しくなります。上映回数を増やそうとすると、俳優をチーム化し、複数組成する必要があり、コストがかさみます。また、俳優による品質の差が生じやすくなります。SphereのようにAIで加工された映像ならこの制約はありません。

 

また、イマーシブ東京では劇場用にストーリーやキャラクターを作成することになりますのでコンテンツ開発費用がかかっているはずです。Sphereの場合は、だれもが知っているオズの魔法使いを使うことでオリジナル性はなくなりますが、開発費を世界に例のない規模の劇場建設、既存コンテンツのAI加工に集中できます。

 

さらに価格を比較してみます。イマーシブ東京の場合は基本料金が6,800円で、「The Sherlock」というプレミアムコンテンツの場合は3,500円の追加料金がかかります。最も高い「江戸花魁」では9,000円の追加料金がかかります。標準的なコンテンツの場合、先述のSphereでの私の入場料の40%弱、プレミアムのThe Sherlockで55%程度、江戸花魁で90%程度です。イマーシブ東京はSphereと比較して上映回数制約、コスト面で不利にもかかわらず、価格が安くなっており、採算はなかなか合わないのではないかと感じます。また、この水準では俳優やスタッフへの給与も十分払えないと思います。

 

また観客のターゲットについても考えたいと思います。Sphereでは、アメリカ人観客が多かったですが世界中からの観光客が対象です。実際に私は中華系やヨーロッパ、中東などと思われる観客も多く見ました。コンテンツは英語ですが、世界共通言語であるうえ、オズの魔法使いを使うことで、内容はある程度分かっており、英語以外の言語使用者にとって言語の障害は低くなっています。一方、イマーシブ東京の場合は、一部、江戸花魁で英語バージョンがあるようですが、多数が日本人俳優と一緒に冒険するため、日本語の対応となっています。インバウンドの方には多くの場合、会話のやり取りや内容の理解など楽しみはかなり減少するでしょう。コスト面では多言語提供のためのイアフォン提供、俳優などへの語学トレーニング費用も発生するでしょう。よって、メインのターゲット顧客は日本人のリピーターということになってしまい、市場が小さくなります。広くインバウンド客を取り込むためには英語、中国語、フランス語など広げていくべきで、AI技術活用は最適のはずですが、使われているようには見えません。クールジャパン機構は日本のアニメなどのコンテンツを世界に広げることがミッションとおもわれ、この面で目的と顧客ターゲットのずれが生じてしまったのか不思議です。その官民ファンドの出資を受けたマーケティング専門会社が企画・運営していたにも関わらず、ターゲット顧客や価格、コスト構造が事前に十分検証したと思えない稚拙な投資を実施してしまったことも不思議です。

 

以上、ラスベガスでSphereの体験と日本のビジネスとの比較を通じて、さらに政策的な含意をまとめます。政府機関の思い込みによる個別企業、個別ビジネスへの資金付け、補助金などはやめるべきです。資金付けは政府が直接行うのでなく、民間金融専門家がビジネスモデルとリスクを判断し、リスクに見合った資金を提供する人材と体制を整備することで供給を円滑にすべきと思います。でなければ、資本によるビジネスへの規律が働きません。また、政府本来の務めは、AIなどの応用、実装ができるよう人材を幅広く育成、教育し、産業全体を育成することです。農学などいまだに大きな規模で残る大学の学部、学科を見直し、コンピューターサイエンスなどの学科を充実させ、高度専門家を多数育成すべきです。また、職業訓練も重要です。建設労働者、エッセンシャルワーカー、ウエイターなど現場仕事はAI時代であっても必要とされるものです。むしろ、現場仕事においてAIを使いこなして生産性をあげることができれば、収入の得られる大きな雇用分野になり、日本経済の成長にも大きく寄与すると思われます。このような観点から職業訓練制度も組みなおしていく必要があると考えます。

 

アメリカと日本の経済力、新技術実装化のギャップをビビッドに体感したラスベガス訪問でした。