コラム
column
2026-01-27
ドイツ フランクフルト訪問(神棒 2025年12月)
2025年最後の渡航先に選んだのは欧州でした。ドイツのフランクフルト、イタリアのベニス、ローマ、バチカン、マルタ共和国と回り、私の生涯通算渡航国数が72となりました。今回は前回訪問から大きく変貌したドイツが印象的でした。
フランクフルトは30数年ぶりでした。金融関連の仕事が長く、フランクフルトは欧州大陸の金融センターですので、もっと縁があってもおかしくないですが久しぶりの訪問となりました。感じたのは、変貌したドイツの社会でした。数年前から、ヨーロッパのビジネスマンに会うと、「ドイツ経済はうまくいっていない。」、「自動車では電気自動車で中国勢に需要を取られている。自然エネルギー政策も失敗だ。」、「ドイツはひどい」、「ドイツにはいきたくないけど、仕事だから仕方なく行っている。」など否定的な話を何人からも繰返し聞きました。私は、欧州でドイツは勝ち組であり、相対的にうまくいっていて、他の地域の人のやっかみかなと軽く思っていました。日本とも比較してみます。1人当たりGDPで見ると、2025年予測でドイツが56,000ドルで、日本が約35,000ドルですので日本より実額で20,000ドル超、率で60%高いことになります。人口は日本が1億2200万人、ドイツが84百万人と、ドイツは約2/3の規模ですが、一人当たりGDPが60%高いので経済規模で逆転が起こっており、日本は経済規模で世界第3位の地位をドイツに明け渡しています。日本は戦後復興を経て1968年に当時の西ドイツを抜き世界第2位の経済規模となりましたが、2010年に中国が日本に取って変わり、2023年には55年ぶりにドイツが逆転、日本を抜き世界3位の規模となりました(以上の出所、IMFデータ)。
今回訪問して、欧州の人たちが言っていたことの意味が分かりました。どういう経験をしたかを記述したいと思います。
ドイツと言えば、効率的で、電車、バスなどの交通機関も清潔で時間通り運航されるイメージですし、私が30年以上前に訪れた時を思い起こしてもそんな印象が残っています。ところが、今回滞在では、フランクフルトからウルツブルグやハイデルベルグと往復するときに30分以上遅れ、また別の時には駅で遅延という表示がでて出発予定時間が変わっていき、結局欠航になってしまったなど時間を無駄にしてフラストレーションが頂点まで達しました。鉄道会社のスタッフ、乗客を見ても「遅れるのが当然、やむを得ない」といった態度でした。実際日本の新幹線の定時運航率は99%以上ですが、ドイツ鉄道の統計によると定時運航率は60%程度のようです。
〈フランクフルト駅とドイツ鉄道〉

チケット購入も、ブースに長い行列があり、時間がかかりました。1~2時間乗車する近距離の場合、2等車チケットを購入し、日本の新幹線の自由席に相当するものと考え(私の経験上、ヨーロッパはどこでもそうだと思います)、席に座っていたら、「そこは私の席だ」と言われ戸惑いました。チケットは駅で対面にて購入しましたが、座席の説明もなく、席番号の記載もありません。誇り高きドイツ、整然としたドイツ鉄道のイメージが無残に崩れ落ちました。
また、ドイツ内で10回ほどUberの配車サービスでタクシーを利用しました。ここでは、ドイツが移民社会であることを感じました。法務省統計を見ると日本は外国人居住者が4百万人で人口の3%程度、一方、ドイツは外国籍の移民が1,200万人で人口の15%が移民ということになります。ドライバーの方と話をするとインド、パキスタン、トルコ、中東、東欧など多様で、両親がドイツに移り住んで2世の方もいらっしゃいました。移民がいないとタクシーサービスなどは維持できないようです。ドイツは住みやすいとの話も出ましたが、ほとんどのドライバーは、「差別などストレスを感じる。」、「道路とか混んでいて走りにくい。以前はこんなのではなかった。」、「乗客も、社内で音楽がかかっているとか、空調がきいていないなど、サービスで文句があるなら伝えてほしい。乗車中は顧客の時間なので対応する。降車して、あとでアプリ上やネットで誇張されて文句を言われてたまらない。言葉の問題もあるのだろうが、陰湿だ。」などでした。これらは、右翼化が進む日本でも見られる現象ですが、ドイツ社会の分断を感じさせるものでした。また、タクシーサービスの価格は品質と比べるとかなり高い印象でした。
フランクフルトのクリスマスマーケットの近くの店で昼食を取りました。キノコソースがけシュニッツエルとフライドポテト、アップルシュトゥルーデルのバニラアイスと生クリーム添え、コーヒーとドイツらしい食事でしたが、55ユーロ(約10,000円)でした。これらはドイツのローカル食ですが、今年訪問したロンドン、パリ、ロサンゼルスで同じようなものを食べた場合、値段はもっと高かっただろうと感じる一方、日本と比較するとかなりの価格水準と感じました。
<ドイツ料理 総額1万円>


他の公共サービス、例えば教育も同じです。今回はドイツの教育現場に触れる機会がありませんでしたが、例えばPISA(OECD(経済協力開発機構)が行う世界的な学力調査。義務教育を終える15歳までに学んだ知識や技能を、実生活でどの程度活用できるかを測る調査です。)の得点を見てみます。初等、中等教育は質が高く、公教育が維持されていて学費が安いといわれる日本とかなりの差があります。ドイツはOECD平均のやや上に位置していますが、日本と比較すると数学が日本比△61ポイント)、読解 同△36ポイント、理科 同△55ポイント)となっています。
医療サービスを見ると、日本が皆保険制度で、安価に気軽に診療を受けられるのに対し、ドイツは違うようです。国民の90%は公的医療サービスに加入していますが、鉄道と同じようなサービスの問題を抱えているのではないでしょうか。10%は私的保険でカバーされていてサービス品質(待ち時間など)が良いようですが、大半は公的医療のみです。結果として平均寿命を見ると、日本の平均85歳より3.3年短いようです。(出所:OECDデータ)
欧州の優等生と言われるドイツのベーシックサービスなどの質、価格差を経験して、今回強く感じたのは、日本のサービスの質の高さ、価格とのバランスの良さです。ドイツの一人当たりGDPが日本の1.6倍もあるのが不思議でさえあります。
今後、日本はますます人口減少により外国人材を活用せざるをえないと思いますが、ドイツの事例も見つつ、日本独自の仕組みで共生し、今、崩壊しかかっている公共サービスの高い質、手ごろな価格を何とか維持していくことにエネルギーを使っていくべきと考えます。
どのような政策展開をすべきか、私の頭に記述したいことがいくつもあるのですが、このコラムで書ききれるものではなく、別の機会に譲りたいと思います。1点だけ挙げるとすると、最大の課題は日本では中小企業のみならず、上場企業、公務員も含めてあらゆる職種、階層で給与が安すぎるという点です。河野龍太郎著「日本経済の死角」に記載されていますが、1998年以降、日本は時間当たり生産性が30%向上しています。経済理論によれば企業は生産性の向上に呼応して給与を上げていくはずです。ところが企業側は空前の利益を上げているのにもかかわらず、実質賃金はむしろ下落しています。一方のドイツは同時期時間当たり生産性が20%向上し、15%実質賃金が上昇しています。日本の生産性はドイツと比較しても上がっているのに、一人当たりGDPで大きく劣後している要因は賃金上昇が見られないことにあると考えます。日本の医療サービス提供者、学校の先生、鉄道などの公共サービス従事者はドイツなど先進国を超える高い質のサービスを提供しているにもかかわらず、それに見合った賃金が得られていません。日本は経済原理通りに動いておらず、経営者が安全を求め、本来の機能を果たしておらず、市場が失敗しており、政府が介入すべきと思います。つまり、法人税減税や金融緩和からもたらされる円安による輸出環境の改善などのアベノミクス政策をやめ、社会保障、税を通じた公共サービスの持続性を高める労働分配率向上確実にする政策を重点とする必要があります。賃金の上昇は、直接の国内需要増、海外でなく国内への投資、そしてそれらの乗数効果により大きな需要増につながると考えます。