コラム
column
2018-03-26
ロサンゼルス・ラスベガス出張(神棒 2018年2月)
神棒です。2月にロサンゼルス、ラスベガスに出張する機会がありました。ロサンゼルスは近年、何度も行っていますが、ラスベガスは約20年ぶりでした。ラスベガスは世界最大の統合リゾート(IRと呼ばれています)であり、日本でも導入の検討が進められているようですのでビジネス面でも関心が高い話題と思います。私はIRの専門家ではありませんが、今回の出張から感じたことを書きたいと思います。
<不夜城 ラスベガス>
ラスベガスがあるネバダ州では賭博が合法化され、ルーレットなどのテーブルゲームやスロットマシーンなどのゲームマシーンがホテルの中などでカジノ施設として提供されています。顧客の多くはカジノなどを楽しむとともに、ホテルに宿泊し、多様な食事、食事、化粧品、時計などブランド品の買い物、シルク・ドゥ・ソレイユ、ジェニファーロペスなどの有名歌手のショー、遊園地などで時間を過ごして楽しみます。また、大きな展示会場などがあり、ビジネス展示会、国際見本市として利用されており、今回、私も見て来ました。世界最大の家電見本市「インターナショナル・コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)」などもラスベガスで開催されています。
ビジネスモデルとしては、ホテルや展示会場を集積させ、個人客、家族客、ビジネス客を集めます。ゲーム収入の6.75%をネバダ州にゲーム税として支払う必要があります。他の税金と合わせ実効税率は売上比7.75%になるようです。しかし、これら税金も踏まえて、確率的、長期的には必ず胴元であるカジノ運営側が儲かるようになっています。カジノに加え、上記の通り、カジノ収入以外にホテル宿泊、食事、買い物、ショーなどで娯楽を幅広く提供して、お金を落としてもらうというものです。
Las Vegas Convention and Visitors Authorityが公表している統計によると、ラスベガスに2017年に4,221万人が訪れ、そのうち19%がアメリカ以外の外国人。またそのうち、展示会などへの参加者が665万人とのことです。訪問者はカジノ、宿泊、買い物などで355億ドル(約3兆7千億円、為替レート105円として算出。以下同様)をラスベガスに落とし、国、自治体に21億ドル(約2,200億円)の税収をもたらしていると計算しています。また、ラスベガス全体でホテル客室は149万室となっており、年間稼働率が88.6%、平均客室単価(ADR)が129ドル(約14,000円)となっています。
カジノ運営主体としては、アメリカらしく民間が行っており、市場メカニズムによる運営がなされています。有名なのはLas Vegas Sands社です。シンガポールでもIRがあり、船の形をしたプールがホテルの最上階、空中にあるMarina Bay Sandsが有名ですが、この施設もこのアメリカのSands社が運営しています。その他マカオなどでもIRを運営しています。
Sands社の売上は、2017年に129億ドル(約1兆4,000億円)、ニューヨーク証券取引所に上場しており株式時価総額が563億ドル(約5.9兆円)と巨大です。日本には比較できる会社がないと思いますが、同じ娯楽産業で、東京ディズニーランドを運営するオリエンタルランドの売上が4800億円弱、株式時価総額は3.9兆円ですので、いかにいかに巨大かが分かると思います。Sands社以外にも、MGM Resort InternationalやWynn Resortsなどが著名で上場しています。(時価総額は3月23日時点)
<Sands社の運営する巨大展示場>
日本でラスベガスのような大規模なIRが生まれるとは考えにくいですが、めぼしい成長産業がなく停滞した経済状況の中、税収を増やしたい国や自治体にとってIRの解禁は手っ取り早いビジネス振興策と言えるかもしれません。
ただ、カジノは負の面もあります。National Council on Problem Gamblingによるとギャンブルにのめり込んだり、やめようとしてもやめられず、より頻繁に、休む間もなく賭けに興じたり、損失をあえて求めてしまったりする症状が出るようです。この結果、個人、家族、職業といった生活に深刻なダメージを与えることになってしまうことが指摘されています。アメリカの大人のうち1パーセントに相当する200万人が病的に(pathological)ギャンブルを行なっており、さらに2〜3パーセントに相当する400〜600万人が問題のあるギャンブルをしている(problem gambling)との見解を示しています。ギャンブルでトラブルを抱えると、アルコールの過剰消費や麻薬などの問題も生じがちです。
日本人でも最近では大手名門会社の創業者一族で、元会長である人物が100億円弱の資金を不正に会社から借入し、ラスベガスでカジノに使ってしまった事例が有名です。
こういった副作用のあるギャンブルをアメリカでは、純粋なビジネスとして民間企業が運営し、収益を上げ、ニューヨーク市場に上場までしています。上述のSandsなどのアメリカ企業は、日本でのIR解禁による参入を虎視眈々と狙っているようです。(Sands社Annual Reportより)
私が懸念するのは、一旦、副作用があるギャンブル産業を民間企業、特に上場企業が参入した場合、その後の規制が難しくなることです。企業側、経営者は、株主価値を最大化=収益、キャッシュフローの最大化に注力するのが使命です。そこにはギャンブル依存症による個人、家族生活の破滅など社会的なコストの考慮は二の次です。さらに企業がロビー活動(議会の議員、政府の構成員、公務員などに自分たちの主張を行なって政策などに影響を与えること)、政治献金などを行なって、自分たち、特に株主に不利になるような規制が導入されないような活動をします。株主のためには経営者は当然の行動と言えます。
私がこう考える背景はアメリカの銃産業です。毎週のように乱射事件が起き、多くの人が命を落としているのに、なかなか銃規制が進みません。アメリカの歴史的、文化的な背景もあるようですが、よく言われるように、全米ライフル協会(NRA)や銃メーカー(例えばSmith & Wesson などが有名でいくつもの会社が上場しています)、が豊富な資金力を背景に、ロビー活動、政治献金を行い銃規制を阻止しているというものです。銃を持つことは憲法で保証された権利で、アメリカの文化であると。
乱射事件があるたびに被害者の家族などが銃規制を訴え、大きな議論が沸き起こりますが、ロビー活動などをウオッチしている団体(OpenSecret.org)などによれば、銃を所有する権利に使われるロビー活動費は、銃規制に使われるロビー活動費の5倍に当たるという統計もあります。つまり、政策などがビジネス化(お金で売買されている)しており、社会の共通善や社会的な悪影響を考慮するのではなく、より多くの資金を使う方に有利に制度を設計しているという可能性があります。
日本がIRを導入する場合も、一度解禁して、民間会社が運営を行った場合は、その後の規制強化などはかなり困難になると思います。特にアメリカの大手カジノ運営会社などが参入した場合は、本国での政治力を使って日本に積極的なロビー活動を行なってくると予想されます。制度設計、つまりギャンブルがもたらす負の側面、社会コストを十分に留意した設計をしっかり行った上で解禁すべきで、ビジネス面と両立する制度設計は簡単なことではないと思います。

